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第27回「37年後、だれかから思いをかけられますように」

 著者:千葉潮

ご無沙汰しました。

先日神保町の古書店で30~40年以上前に出版された岩波新書を数冊購入。
そのうち3冊を読みました。
どれも、読ませる内容でした。
均一本で見つけた一冊100円のものが2冊。
後一冊は、これは読みたいと思って探していたものを新書専門古書店(なんだか矛盾を感じる分類分けだなあ)で500円で手に入れたもの。
1970年代に戦後史を書いたものばかりです。

その中で、一番おもしろかったのが「結婚退職後のわたしたち」というタイトルのもの。
内容は?
腰掛けOL(なんて今時の若い人には意味が通じるかな?)を揶揄した内容かな?
などとおもってページをめくりましたが、それが大間違い。

結婚退職したのは、製糸工場の女性工員たちでした。内容は、さまざまな製糸工場の労働組合の活動家だった女性に、アンケートを実施し、20人弱の回答者にその後の人生をインタビューしたもの。
インタビューされたのは当時30~40歳程度の方です。著者は繊維労連の書記をつとめた女性でした。
その昔「女工哀史」と書かれた人たちです。
彼女たちは、苛烈な労働条件と闘い、まだまだ女性の権利が軽視されていた時代に自立した人生を選びとってきたのですが、その真摯な声に非常に心を動かされました。

彼女らの組合活動は、本社執行部との闘いでもあったようです。
本工と期間工との賃金格差があるのはおかしい、女だからといって執行部の男の委員の言いなりになるのはおかしい、そして自分たちの問題は自分たちが動かない限り解決しないと、意識を高めます。

この人たちは、うちの母と同世代あるいは、もう少し下の世代ですが、政治意識も高く、当然ながら労働者としての意識も高い。意識の低い夫を嘆いたりもしています。
(組合専従の夫を支えるため、低賃金のパートに出ている人も少なくなかった)。

話は変わりますが、先々週の日曜日は、橋下知事のドーンセンター視察日にあたりました。ホールでは映画と音楽のイベントが行われる日。
ドーンセンター存続のアピールのため千葉さんも来てよ、
と声がかかり、私も鑑賞に行きましたが、参加者は60歳代あるいはもっと年上の女性たちがかなりの数を占めました。

40~50代のひとが中心だと勝手に予想していたので、なぜかしら?とそのときは疑問に思いました。しかし、この本を読んでから、彼女たちはもしかすると組合活動を通して社会活動、女性の権利拡張の活動をしてきた人たち、あるいはそのシンパだったのかも、それなら納得がいくなぁと思うようになりました。

古書店で出会えるのは文化史とか文芸とかに限定かな?……などとおもっていたら大間違いでした。今日いまこのとき役に立つ、考察を深めることが出来る、そんな情報が詰まっているのですね。いつも反省ばかりです。本は出会うべきときに出会うもの、そんなことをしきりと考えました。
なお、文体も非常に品格があり分かりやすいものでした。
(執筆者の地力もさることながら、編集者の力量も相当なものだと思われました)

37年後、誰かが読んで、著者や対象に思いを馳せてくれる本を、今日の私は作ることが出来るでしょうか? さてさて、気持ちを引き締めましょうか。

読んだ本
「結婚退職後の私たち~製糸労働者のその後~」
塩沢美代子著 岩波新書 1971年9月20日 第1刷発行
購入書店は失念、価格は100円でした。

同著者(こちらは共著)で、「ひとり暮しの戦後史」も購入。こちらもいろいろ考えさせられました。

この記事の著者:千葉潮 »プロフィール

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