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「寄り合い談義・悪文改善法」のまとめ5

 著者:正木斗周

 2014年11月のいちもくセミナー、「宿題」の5つ目、文例5です。

 比較的長めの文です。
 例として採り上げたのは、果たしてこれのすべてが必要な情報なのだろうか、という疑問があったからです。

 課題としては、ただの添削というより原文の贅肉を徹底的に削いで、ほとんど骨組みだけのような文にしてほしかったわけですが、原著者の文章をできる限り大事に扱うという考えの方もおられたようで、そのあたりで少し出題の意図とズレが生じたかもしれません。説明不足で申しわけありません。

 まず文例を眺めてみましょう。

文例5:無駄な情報を省き、簡潔にまとめてみてください。

 土日ともなると買い物客で大混雑するJR秋葉原駅周辺は、一昔前までは、家庭電気を売る店が、そして、最近ではパソコンや情報機器を売る店が軒を連ねております。ところで、駅の周辺が大変革を遂げようとしているのをご存知でしょうか。若草色の電車が走る山手線の内側、そして、黄色い電車の総武線の北側にあたる地域一帯が大規模な区画整理を受け、超巨大ビルの建設が進行中なのです。一体何が起きたのでしょう。
 (引用は『絶妙な文章の技術』田村仁 明日香出版社より)

 まず、これは誰に対して、何が言いたくて書かれた文章なのか、を追求してみたいところです。

 例えば「一昔前までは、家庭電気を売る店が…」などは、秋葉原とはどんな街なのかという説明になっています。

 電車の色が若草色か黄色かや、パソコンの街という説明(元の文が古くて、今はフィギュアなど、オタクの街という説明が要りそうです)は、この街のことをほとんど知らない人に向けられています。

 ところが、この文での最も重要なポイントは、「駅周辺の大変革」にあるのではないでしょうか。

 すでによく知られているはずの街が、実際には大きく変わりつつあるというところが、この著者が主張したい最大の要点であるはずです。

 つまりこの文章は、秋葉原を知らない人向けではなく、むしろ秋葉原がどんな街なのかということなどとっくに知っている人こそが読者対象になっているということでしょう。

 まとめていえば、この文例の「悪文」としての最大の要素は、読者対象の異なる2つの説明がひとつにまとめて書かれてしまっている、そこのところにあります。

 さて、回答を見て行きましょう。

◆宿題回答(順不同)

A 土日ともなると買い物客で大混雑するJR秋葉原駅周辺。ここには、ひと昔前までは家電製品を、最近ではパソコンや周辺機器を売る店が軒を連ねています。今、この駅の周辺が大きく変わろうとしているのをご存知でしょうか。山手線の内側と総武線の北側にあたる地域一帯が、大規模な区画整理を受け、超巨大ビルが建設中なのです。一体何が起きたのでしょう。

B パソコンや情報機器を売る店が軒を連ねるJR秋葉原駅界隈。土日ともなると買い物客で大変な賑わいを見せます。駅の北西エリア一帯で大規模な区画整理が行われ、超巨大ビルの建設が進むなど、この街は大きく変貌を遂げようとしています。一体何が起きているのでしょう。

C 土日は買い物客で混雑するJR秋葉原駅周辺は、一昔前までは家電品の店、最近ではPC販売店などが軒を連ねております。ところで、駅周辺が大きく変わろうとしているのをご存知でしょうか。若草色の電車の山手線の内側、そして黄色い電車の総武線の北側の一帯が大規模な区画整理を受け、超巨大ビルの建設が進行中です。一体何が起きたのでしょう。

D 昔も今も電化製品を扱う店が軒を連ねるJR秋葉原駅周辺。その山手線の内側と、総武線の北側にあたる地域一帯が大規模な区画整理を受け、超巨大ビルの建設が進行中となっていることをご存知でしょうか。駅の周辺の大改革、一体何が起きたのでしょう。

E 土日ともなると買い物客で大混雑のJR秋葉原駅。その駅周辺が大変革を遂げようとしている。大規模な区画整理の対象となり,超巨大ビルの建設が進行中である。一体,何が起きたのか。

F JR秋葉原駅周辺は、土日ともなると買い物客で大混雑する。一昔前までは家庭電気を売る店が軒を連ねていたが、最近ではパソコンや情報機器の販売店がとって代わった。そのJR秋葉原駅周辺がいま大変革を遂げようとしている。山手線の内側、総武線の北側にあたる地域一帯が大規模な区画整理を受け、超巨大ビルの建設が進行中なのである。一体何が起きているのだろう。

G 一昔前までは家電製品を売る店が、そして最近ではパソコンや情報機器を売る店が軒を連ねているJR秋葉原駅周辺が、大変革を遂げようとしているのをご存知でしょうか。山手線の内側、そして総武線の北側にあたる地域一帯が大規模な区画整理を受け、超巨大ビルの建設が進行中。一体何が起きたのでしょう。

H JR秋葉原駅周辺が大変革を遂げようとしているのをご存知でしょうか。山手線の内側と総武線の北側にあたる地域一帯が大規模な区画整理を受け、超巨大ビルの建設が進行中なのです。一体何が起きたのでしょう。

I JR秋葉原駅周辺が大変革を遂げようとしています。山手線の内側、総武線の北側にあたる地域一帯が大規模な区画整理を受け、超巨大ビルの建設が進行中なのです。一体何が起きたのでしょう。

 

◆回答を眺める
 回答は、概して原文に近いものから遠いものへと並べたつもりです(一部原則からのずれもあり)。

 ABCFGあたりは、前段として「秋葉原とは」という解説になっている点で、原文と大きな違いはなさそうです。
 かつての秋葉原をどの程度説明するかという点で、それぞれ若干ニュアンスが異なっています。
 最も肝心の「大変革」というポイントは絶対外せないにしても、それ以外の情報として何を残すか。
 どうしても区画整理とその地域の情報は欠かせないでしょう。
 したがって、「山手線の内側で総武線の北側」という情報は必須になりそうです(電車の色が何色であるかなどは余談に近いものでしょう)。

 というわけで、必要な情報としては、
①秋葉原はこれまでと変わりつつある(これまでがどうだったかという説明は不要)
②「山手線の内側で総武線の北側」という地域である
 Bでは「北西エリア」、Eでは「駅周辺」とまとめてしまっていますが、ここまで略すには事実確認が必要でしょう。
③区画整理により巨大ビルが建設
④さてその原因は…?

 以上がこの文の骨組みというべきでしょう。
 この骨組みに近いのがHとIあたりでしょうか。

◆その他
 少し重箱の隅をつついてみましょう。

 A、C、Gでは、「一昔前までは…連ねている」と、過去形でまとめるべき文末が現在形になっています。
 これは実は原文がそうなので、そのまま踏襲されたのでしょう。

 前半が過去、後半が現在を示している重文(2つの文の並列)なので、文末表現は要注意です。
 Fではそのへんを両方過去にしてうまく処理しています。

 Bについて、「界隈」と提示して、「この街は」と受けています。「界隈」は即「街」なのかどうか。少し微妙な感じがします。

 Dでは「建設が進行中となっている」という表現にやや違和感を覚えます。

 Gでは、短い文の中に2度も「そして」が使われていることの印象の問題。

◆大胆な添削という方法
 冒頭にも言いましたように、今回は作者の個性を活かすより、むしろ徹底的に改善してしまいたいという目的がありました。
 そのために、一般の校正でいう「エンピツ」レベルではない、積極的介入が要求されるものになりました。

 このような修正の機会はあまりないかもしれませんが、原著者の狙いを読み取り、それをさらに改善するという作業は、添削者、校正者にとってもよい訓練になるだろうと思います。

◆まとめ:文例5から得られた「御教訓」
言いたいことは必ずしも伝えたいことではない(余分で無意味な飾りを書かない)。
 秋葉原とはどんなところかとか、山手線の電車の色はとか、つい書きすぎるのは、必要であるからというより、自分がよく知っているために知識をひけらかしたくなるという例が多いようです。
 読者に伝えたいことと、自分がしゃべりたい内容とは違うのだという点に注意したいものです。

この記事の著者:正木斗周 »プロフィール

◆編集デザイナー、コーディネーター。DTPはQuark、PageMaker時代から。◆名前の斗周は柳名。本質を捉える今日的な時事川柳の発展普及を目指している。◆最近は仕事より趣味に走りがちで、3年後の個展を目指して水彩画に没頭しつつある。

ウェブサイト:http://epicuritique.masaki-design.biz/

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