「日本語直します」講座・7

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 某エアコン工事会社のウェブサイトにある文です。

【文例7】
 きちんとした工事をしていないか、機器・配管等が破損していないかぎり、封入されている冷媒ガスが機器外へ漏れることはありません。

《分析と修正のポイント》
 一見正しいようで、よく考えると間違っている、まるで錯視のような文章です。
 ガスが外部へ漏れる原因を説明しているわけですが、言いたいことは、
① きちんとした工事がなされていないと漏れる
② 機器が破損していると漏れる
の2点です。

 しかし問題点はいくつかあります。
 まず①の原文を取り出してみると、「きちんとした工事をしていない限り漏れることはない」と読めます。ん? いい加減な工事のほうがよいのかよ〜っと思いますよね。明らかに説明したい内容とは正反対です。

 まぎらわしい書き方になってしまった原因は2つ考えられます。
 ひとつは、「いないかぎり → ありません」という二重否定による混乱です。
 もうひとつは、「〜していない」という言い回しが①②の2つの表現でたまたま揃い、同じ意味合いのように感じられてしまったこと、でしょう。

 そしてこの文がわかりにくいもう一つの重要な理由は、「ガスの漏れ」といういちばん肝心なテーマを最後に持ってきているという点にあります。そのため、文章を半分以上読んでも何が言いたいのかわからないわけです。

 ということで、修正のポイントは、
1.テーマを最初に提示する
2.二重否定など、混乱を呼ぶ表現は避ける

《修正例》
 封入されている冷媒ガスは、きちんとした工事がされていて機器・配管等が正常であれば、機器外へ漏れることはありません。

 ところでひとつ注意が必要です。
 この修正例では、二重否定を避けるために元の文にある否定文「〜していない」を肯定文「〜する」という形に書き換えました。

 元の文の「〜していない〈か〉〜していない」は論理学でいう① or ②の形式です。
 で、① or ②を肯定から否定(またはその逆)に変えると、① and ②の形になるという、ド・モルガンの公式(註)がここでも当てはまります。
 つまりこの文でも、「〜していない〈か〉〜していない」を肯定文に変えると「〜する〈か〉〜する」ではなく、「〜して〈かつ〉〜する」となるということです。ここを間違えないようにしてください。
 あぁややこしい。

 さてこの文が掲載されているウェブサイトは、訂正もされず、今でもそのまま運用されています。
 まったく逆の内容を書いているのにクレームが来ないということは、誰もが、間違っている文章を「ついうっかり」正しく読んでいるからにほかなりません(^^)。校正者も立つ瀬がないですね。

註:ド・モルガンの公式
 (X and Y)の否定はノットX or ノットY
 (X or Y)の否定はノットX and ノットY

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