「寄り合い談義・悪文改善法」のまとめ4
2014年11月のいちもくセミナー、「宿題」の4つ目、文例4です。
「ねじれ感」という言い方をしました。
短い文章ですから、スッと頭に入ってこなければならないはずなのに、何だかギクシャクしている感じがします。
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文例4:ねじれ感のある文章です。改善をお願いします。
テレビ局には、視聴率調査といって、それぞれの番組をどのくらいの人が見ていたか、ということを調べることになっていて、番組の製作者はその結果がずいぶん気になるものらしい。
(文例は中村明著『悪文』より)
◆問題点
冒頭、「視聴率調査といって」とあるように、この著者は読者が視聴率調査というものをよく知らないであろうことを前提に、文章を書いているようです。
そこをまずどう判断するのかによって、添削も変わってきます。
そして、この短文の柱になるのは、後半の「番組制作者はその結果が気になる」ということ。
おそらくは、後半だけをズバッと言うつもりでいながら、「視聴率調査」の説明が要るかな?」と迷ったところに、この文章の問題が発生したというべきでしょう。
つまりは、主文(後半)をしっかり打ち出すと同時に、違和感のない形で解説も挿入するという文章にする必要があるわけです。
◆宿題回答(順不同)
A テレビ局では視聴率調査といって、それぞれの番組をどのくらいの人が見ていたかということを調べることになっているのだが、番組の製作者はその結果がずいぶん気になるものらしい。
B それぞれの番組をどのくらいの人が見ていたかを調べる視聴率調査があって、テレビ番組の製作者はその結果がずいぶん気になるものらしい。
C それぞれのテレビ番組について、どのくらいの人が見ていたかを調べる視聴率調査。番組の制作者は、その結果がずいぶん気になるものらしい。
D テレビ局には視聴率調査といって、それぞれの番組をどのくらいの人が見ていたか、ということを調べることになっている。番組製作者はその結果がずいぶん気になるものらしい。
E テレビ局には、視聴率調査といって、それぞれの番組をどのくらいの人が見ていたか、ということを調べることになっている。番組の製作者はその結果がずいぶん気になるものらしい。
F テレビ局には、それぞれの番組をどのくらいの人が見ていたかを調べる視聴率調査というものがある。番組の製作者は、その結果がずいぶん気になるものらしい。
G テレビ局には、視聴率調査というものがある。それぞれの番組をどれくらいの人が見ていたかを調べるもので、番組の製作者はその結果がずいぶん気になるらしい。
H テレビ局は、それぞれの番組をどのくらいの人が見ていたかを調べる「視聴率調査」を行う。番組の製作者はその結果がずいぶん気になるものらしい。
I テレビ局には、それぞれの番組をどのくらいの人が見ていたかを調べる視聴率調査がある。番組の製作者はその結果がずいぶん気になるものらしい。
◆「視聴率調査」は既知か未知か
回答例のB、C、H、Iでは、「視聴率調査という」という形にはなっていないために、「視聴率調査」を説明しているにもかかわらず、それを「視聴率調査」と呼ぶのかどうかということには触れられていないように(微妙ですが)感じられます。
つまり、読者は「視聴率調査」の何たるかをある程度は知っているという前提での書き方になっているように思われます。
ただしHに関しては、カギカッコを使うことで「というもの」を表すという効果を採用しています。
◆文をつなげるもの
文の前半と後半でちぐはぐな感じを持つわけですから、解消法としては①文のつながりを工夫するか、②つなげないで2つに分けるか、どちらかでしょう。
①の手法を採った回答例はA、B、Gの3つ。
原文は「なっていて、」という形をとっています。文法的には連用形での休止です。
回答例でもBとGが「〜あって」「〜もので」と原文と似た形。
Aは「〜のだが」と接続助詞を使っています。
連用形で止めればどうなるか。
一般的に、「AはXであって」と来ると、読者はそれに関連した対応関係が次に来るものと期待します。たとえば「BはYである」など。
ところが文例では、前後半が別々の内容ですから、そのような対応関係の予測を裏切ってしまいます。そこが問題です。
回答例Aでは「だが」という接続助詞を使っていますが、果たしてこの接続助詞は順接なのでしょうか、逆接なのでしょうか。
前半を肯定して後半につなげるのか、前半を否定して逆の内容を述べるのか、そこのところが曖昧になっているように感じられます。
◆文意が違うものをつなげることは困難
というわけで、そもそも別の内容を述べた文章を接続詞などでつなげること自体、無理があるといわざるをえません。
そのことに気づいた?のが残りの5文例でしょう。
Cでは、「視聴率調査。」と体言止めにしました。
だらけがちな文章をキリッとまとめるのに、体言止めは有効です。ただし、ある種の文体の「クセ」を感じさせますので、使用はあくまで最小限に。
その他は「なっている」「がある」などで止め、2つの文にしています。
結果的には、この方法のほうがすっきりするのではないでしょうか。
ただ、回答例のうち2つで「ということを調べることに…」と「こと」が連続しているのはやや目障りかもしれません。
◆まとめ:文例4から得られた「御教訓」
・2つ(以上)の内容を含んだ文章は2つに分ける
・体言止めは使い過ぎない
・同一語句の連続に注意(「こと」「もの」の繰り返しはありがちなので特に)