今回は理系専門書を採り上げます。
某大手ソフトウェアメーカーから、サーバ構築に関する技術説明書を出版したいとして校閲を依頼されました。
読者対象自体が、コンピュータやネットワークの専門家であり、一般の校閲に望まれるような「わかりやすい言葉に直す」必要性はほとんどありません。
問題は、著者の説明が効率よく読者に伝わるかどうか、誤読の可能性を減らし、読者を迷わせないようにできるか、というところにあります。
専門書だから、校閲はその道の専門家でないとできないか?
意外にそうではありません。元の文章が論理的にできていれば(その論理をたどることができさえすれば)、専門家でなくても校閲はできるものです。
ただしもちろん、関連分野の知識があるにこしたことはありません。
【文例2】
認証チケットが認証クッキーとしてクライアントに渡されるからパスワード情報を含めない、という理由ではないことに注意する。
さっぱり意味がわからないと思う方もあるかもしれません。
「認証チケット」って何? 「クッキー」って何? そもそも何のことを言ってるの?
でも、そういうときは論理だけを追っていきましょう。骨組みだけを抽出してみます。この文は、
「AがBされるからCしないという理由ではない」
という構造です。
この一文で何が問題かといえば、もっとも重要な主題である「Cしない」が文章後半にしか出てきていないというところにあります。
そのために、前半を読む段階では何のことを述べているのかわからない。読者は迷いますね。
ポイントは、「主題は最初に提示せよ」です! つまり、
「AがBされるからCしないという理由ではない」
↓
「『Cしない』のは、AがBされるからという理由ではない」
こうすれば、論理がずいぶんすっきりするのではないでしょうか。
というわけで、校閲の結果として以下のようになりました。
「『パスワード情報を含めない』のは、認証チケットが認証クッキーとしてクライアントに渡されるから、という理由ではないことに注意する」